筆者と中学時代の同級生

特定の者への贈与を相続財産から控除させない自筆証書遺言書の書き方 ケース1

遺言書

遺言者 伊藤太郎は次のとおり遺言する。

1 私は、長男伊藤一郎(生年月日)に対し、令和〇年に行政書士事務所を始めるに当り500万円を贈与したが、私の相続に関し、共同相続人の相続分を算定する場合、上記贈与の持戻しを免除する

特定の者への贈与を相続財産から控除させない自筆証書遺言書の書き方 ケース2

遺言書

遺言者 伊藤太郎は次のとおり遺言する。

1 私は、長男伊藤一郎(生年月日)に対し、令和〇年に行政書士事務所を始めるに当り、別紙1の不動産を贈与してあるところ、相続分は、上記贈与がなかったものとして算定すべきものとする。

別紙1の不動産:所在、地番、家屋番号等により不動産を特定できれば、登記事項証明書(登記簿謄本)の一部分や縮小したコピー、登記情報提供サービスを利用した印刷物を財産目録として添付することができます。不動産が未登記でも固定資産課税評価証明書、名寄帳のコピーを添付することができます。自書によらない財産目録を添付する場合は、そのページごとに署名し、押印する必要があります。署名は自書する必要があります。左上に「別紙1」と記載します。

共同相続人への贈与を相続財産から控除させない自筆証書遺言書の書き方 ケース3

遺言書

遺言者 伊藤太郎は次のとおり遺言する。

1 民法903条1項に規定する相続財産の価額の算定に当たっては、私が生前相続人らにした贈与に係る財産の価額は、相続財産の価額にくわえないものとする。

※遺言者が相続人らの特別受益の全てに持ち戻し免除の意思表示をした例です。

特別受益とは

相続人(長男伊藤一郎)が遺言者(伊藤太郎)から生前に遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため、若しくは、生計の資本として贈与(500万円、別紙1の不動産)を受けた利益を特別受益といい、特別受益を受けた相続人を特別受益者(長男伊藤一郎)といいます。上記例では、500万円、別紙1の不動産が特別受益であり、長男伊藤一郎が特別受益者になります

特別受益の持戻しとは

相続人の中に特別受益者(長男伊藤一郎)がいる場合は、遺言者が相続開始の時のおいて有した財産の価額(遺贈に係る財産は、この相続開始時の財産に含まれます)に特別受益者(長男伊藤一郎)に対する贈与の価額(500万円、別紙1の不動産)を加えたものを相続財産とみなして、指定相続分(遺言書)に従い算定した相続分の価額から遺贈又は贈与(500万円、別紙1の不動産)に係る財産の価額を控除した残額が特別受益者(長男伊藤一郎)の相続分となります。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。

特別受益の持ち戻し免除の意思表示

上記「特定の者への贈与を相続財産から控除させない自筆証書遺言書の書き方」は特定の生前贈与(500万円、別紙1の不動産)に関する特別受益の持ち戻し免除の意思表示をした遺言書の例です。
生前贈与についての特別受益の持戻し免除の意思表示は、その贈与契約の際にもすることができます。しかし、遺贈は遺言でなされるものですから、遺贈の特別受益の持戻し免除の意思表示は、遺言でしなければなりません。

特別受益の持ち戻し免除がない場合、遺贈又は贈与(500万円、別紙1の不動産)の価額が、指定相続分(遺言書)を基に算定した価額以上であれば、特別受益者(長男伊藤一郎)は、その相続分を受け取ることができません。

特別受益の持ち戻しができない(特別受益に該当しない)ケース

・特別受益の持ち戻し免除の意思表示がある場合
・婚姻20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与・遺贈
・生命保険金や死亡退職金
・相続人以外への贈与・遺贈
・扶養の範囲内と考えられる生活費

特別受益の持ち戻し免除の意思表示をした場合の遺留分侵害額請求は

遺言者が遺留分の規定に反して特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしても、この意思表示は有効です。
そして、特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしても、遺留分権利者が相続財産に特別受益分を加えて遺留分侵害額請求をすることも可能です。
尚、遺留分の算定に加えられる特別受益は、相続人以外の者への贈与については相続開始前の1年間、相続人への贈与については相続開始前の10年間に行ったものに限られます。

民法903条1項(特別受益者の相続分)

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条(法定相続分)から第902条(遺言による相続分の指定)までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

遺言書を作成しても、ご自身の財産をどのように使用、処分するかは自由です

遺言書を作成すると、その遺言と矛盾する財産処分はできなくなると思い込んでいる方もいらっしゃいますが、遺言者の方がご自身の財産をどのように使用、処分するかは自由です。遺言書の内容に縛られることはありません。例えば、「長男に土地・建物を相続させる」と遺言書に記載しても、土地・建物を売却することは可能です。この場合、「長男に土地・建物を相続させる」という遺言が撤回されて、遺言執行ができなくなるだけです。遺言書を作成されることのデメリットは一切ありませんので、ご安心願います。

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・自筆証書遺言の長所、短所、法的要件は別記事自筆証書遺言についてを参照願います。

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1 自筆証書遺言書の書き方(基本型、遺産の全部を相続させる、遺産の全部を包括して遺贈する遺言)

3 遺産の一部を妻と長男に相続させる自筆証書遺言書の書き方

4 一筆の土地を具体的に分割して相続させる自筆証書遺言書の書き方

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6 増築部分が未登記の建物を相続させる自筆証書遺言書の書き方

7 遺産を割合で相続又は遺贈する自筆証書遺言書の書き方

8 予備的遺言(自筆証書遺言)の書き方

9 将来相続によって取得する財産を遺言で相続させる場合の自筆証書遺言書の書き方

10 清算型自筆証書遺言の書き方

11 相続分を指定する自筆証書遺言の書き方

参考文献

自筆証書遺言書保管制度のご案内(法務省民事局、令和5年1月作成)

遺言等公正証書 作成の知識と文例(麻生興太郎著、日本法令、令和5年5月10日)

行政書士のための相続実務マニュアル(初見 孝著、三省堂書店/創英社、令和4年9月30日)