
債務を承継させる自筆証書遺言書の書き方
遺言書
遺言者 伊藤太郎は次のとおり遺言する。
1 私は、私が四日市銀行に対して負っている1000万円の債務を、長男伊藤一郎(生年月日)に相続させる。
遺言による債務割合の指定は債権者に対抗できません(民法899条)
債権者(上記の例の四日市銀行)は遺言書による債務割合の指定(長男伊藤一郎に相続させる)にしばられません。例えば、相続人が長男、二男の二人の場合、遺言書によって債務割合が指定されても、債権者(四日市銀行)は法定相続分に応じて500万円ずつ長男、二男に請求できます。二男が500万円を四日市銀行に支払った場合は、二男は上記遺言を根拠に500万円を求償できます。
二男は債権者(四日市銀行)から500万円の支払請求があった場合、上記遺言を根拠に支払いを拒むことはできませんが、遺言者の死後3か月以内に家庭裁判所に対して相続の放棄を申し立てれば、相続人の地位を失いますので、債権者(四日市銀行)の支払い請求を拒否できます。
遺産分割協議による相続分の放棄は債権者に対抗できません
遺言書とは別に、長男、二男の相続人全員で、二男が相続分を全て放棄するという遺産分割協議を行っても、相続人の中での取り決めに過ぎませんので、債権者(四日市銀行)の支払い請求を拒むことはできません。債権者(四日市銀行)の支払い請求を拒むためには、家庭裁判所に対して相続放棄の申し立てが必要です。
遺言者の債務にならないもの
相続財産に関する費用(相続財産の管理や精算に必要な費用)と遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担となります(民法885条、民法1021条)。
遺言者の葬儀・埋葬費用は、遺言者の債務ではなく、葬儀・埋葬を主宰する者が負担します。
このような遺言者の債務にならないものを、特定の相続人(例えば長男)に負担させたければ、負担付遺贈又は相続にします。
関連民法
第899条(共同相続の効力)
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
民法885条(相続財産に関する費用)
相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
第1021条(遺言の執行に関する費用の負担)
遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
遺言書を作成しても、ご自身の財産をどのように使用、処分するかは自由です
遺言書を作成すると、その遺言と矛盾する財産処分はできなくなると思い込んでいる方もいらっしゃいますが、遺言者の方がご自身の財産をどのように使用、処分するかは自由です。遺言書の内容に縛られることはありません。例えば、「長男に土地・建物を相続させる」と遺言書に記載しても、土地・建物を売却することは可能です。この場合、「長男に土地・建物を相続させる」という遺言が撤回されて、遺言執行ができなくなるだけです。遺言書を作成されることのデメリットは一切ありませんので、ご安心願います。
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9 将来相続によって取得する財産を遺言で相続させる場合の自筆証書遺言書の書き方
参考文献
・自筆証書遺言書保管制度のご案内(法務省民事局、令和5年1月作成)
・遺言等公正証書 作成の知識と文例(麻生興太郎著、日本法令、令和5年5月10日)
・改定増補版 行政書士のための相続実務マニュアル(初見 孝著、三省堂書店/創英社、令和7年4月12日)
・【ケース別】遺言書作成のポイントとモデル文例(山田知司編著、新日本法規、令和4年12月9日)